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ヨーロッパの額縁 No.2



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【イタリアのアリキュラー額】

 初期のアリキュラー額(耳の形に似ている額)は、フィレンツェの

メディチ家コレクションで用いられたものと、17世紀イタリアのマニエリスム5のサンソヴィーノ額6である。

サンソヴィーノ額は、重なり合い、絡み合う渦巻装飾や部分メッキ、グラッフィート7装飾がその特徴である。

一方、メディチ家やフィレンツェの額は、全体に金メッキされ、華やかな透かし彫りがされている。









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【サンダーランド額】


 イタリアのマニエリスムに影響を受けたイギリスの額縁で、

渦巻装飾は、マニエリスムより浅く柔らかな浮彫となった。

サンダーランド額は、耳状の彫りが特徴で、頂上にカルトゥーシュ8

下部にマスク(人面)がついているのが、その典型である。









【オランダ額】


17世紀、オランダと新しい世界との交易により、鼈甲(べっこう)や黒檀(こくたん)のような、外来の木材などの多くの珍しい素材が、北ヨーロッパにもたらされた。

この時代のオランダ額は、ボレクション様式9(盛り上がった凸状モールディングの額)といい、その表面に黒檀仕上げをし、銀箔や象嵌細工や鼈甲などで化粧貼り装飾を施すことで、その価値をさらに高めていた。

 オランダ額は基本的には2種類に分かれており、一つ目は、より簡素で禁欲的であり、全体的には黒檀貼り仕上げで階段状になった平面と波状モールディングが施されている。

もう一つは、より手の込んだオランダ・アリキュラー様式で、豪華絢爛に金メッキされ、花や果物の綱飾りや武器の模刻などで飾られていた。


  No.3へ続く


# by johanesvermeer02 | 2018-11-11 21:24

ヨーロッパの額縁 No.3



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【カルロ・マラッタ額、または、サルバトール・ローザ額】

 イタリア・バロックの画家カルロ・マラッタ(1625-1713)の名にちなんで付けられた新古典様式の額で、その起源はサルバトール・ローザ額に由来する。

グランド・ツアー10によってイギリスに持ち帰られ18世紀のイギリスで人気を博した。基本的に、金箔を水貼りしており、中央が窪み(スコティア部11)、

盛り上がった凸状の上端(うわば)と端先(はさき)のある

オジー・モールディング12(葱花線繰型)でできている






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【パラディアン額、またはケント額】

 パラディアン額は、ジョージ王朝時代のイギリスで人気を博した。

その作例は、今日、1718世紀の多くの素晴らしい、イギリス油彩画に嵌められたもので見る事が出来る。これらのパラディアン額は、当時、第一級の建築家ウィリアム・ケントによってデザインされ、ケント額として広く知られるようになった。

 これはケントのあらゆる設計に見られるように、16世紀のアンドレア・パッラーディオのウィトルウィウスの建築や、その追随者である17世紀のイニゴー・ジョーンズから、直接影響を受けている。そして広いフリーズのある平らなアーキトレーヴ・プロフィールに、彫りや砂加工が施され、突出した四隅のある建築的モールディングが特徴である。










【ルイ様式】

見事な彫りと金メッキされたフランス・バロックとロココの額縁は

5つの期間から成る。

① ルイ13世様式(1630-1643

② ルイ14世様式(1643-1715

③ 摂政様式   (1715-1723

④ ルイ15世様式(1723-1774

⑤ ルイ16世様式(1774-1792


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≪ルイ13世様式≫

凸状プロフィールと半円のトルス13部分をもつバロック様式。

連続した葉のパターンが複雑に彫られ、金箔が水貼りされている。



  N0.4へ続く




# by johanesvermeer02 | 2018-11-09 21:49 | 額縁

ヨーロッパの額縁 No. 4

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ルイ14世様式

太陽王の名を冠した額からもわかるように、ルイ14世額は、葉状装飾の

Sスクロールや帯状装飾、四隅にアカンサス、貝のカルトゥーシュ

そして太陽王の象徴である向日葵のついた華麗な額である。






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摂政様式

ルイ14世様式とルイ15世様式の両方にとてもよく似た様式で、

過渡期の額縁とも言われる。

摂政様式は、手彫りで、表面には砂のテクスチャー、下地の石膏の上にクロス・ハッチング(網目模様) や点刻されているのが特徴である。









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ルイ15世様式

フランス・ロココ時代からの額で、アントワーヌ・ヴァトー(1684–1721)

フランソワ・ブーシェ(1703–1770) のフェート・ギャラント(雅宴画)

デザインに非常に影響を受けている。

ルイ15世様式は、よく「壁の家具」とも言われる。

非対称のフランボワイヤン様式14は、18世紀のファッションやインテリア・デザインのフランボワイヤン様式にも反映された。

額は、透かしのモチーフや貝や動物、鳥、花や葉の装飾が特徴である。






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ルイ16世様式

ロココに続く新古典様式。

ルイ16世様式は、18世紀の古代への関心を示す古典回帰が特徴であり、

前時代のフランス額のデザイン装飾を全く踏襲しなかった。

ルイ16世様式は、アーキトレーヴ15のついた四角いエンタブラチュア3で出来ていて、アカンサスの葉やラムズ・タングー(羊の舌)、リボン・ツイストといった古典のシンボルを含む装飾がついている。


No.5へ続く


# by johanesvermeer02 | 2018-10-13 22:49 | 額縁

ヨーロッパの額縁 No. 5



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【アンピール様式】

 ナポレオンの治世は、ポンペイやヘラクレネウムでの遺構の発見を奨励し、新古典主義へさらに関心が深まった。
アンピール様式は、アンテミヨン※16(忍冬模様)あるいはパルメット(椰子の葉)、ハニーサックル(匂い忍冬)、蓮、アカンサスの葉の装飾が含まれているのが特徴である。






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【ヴィクトリア朝ロココ・リバイバル様式】


 19世紀のイギリス、ヴィクトリア様式では、初期のルイ様式に
影響されているが、装飾がより大きくなっている。
額のほとんどは、漆喰やコンポジション(型取り)で作られている。
コンポジションとは、白亜と膠、リンシード・オイル、樹脂を
混ぜてレリーフの型に入れてレリーフ自体を複製することである。
アンティークのロココ・リバイバル額は19世紀に描かれた多くのイギリス油彩画とよく合っている。






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フェルナンド・クノップフ  1885年 キャンバスに油彩
額:1887年にパルメット装飾玉縁の装飾に銀箔を貼った額で彼によってデザインされた。


【アーティスト額】
 画家は常に、額をデザインすることを好む。
なぜなら、自身の芸術作品に一番ふさわしい額を生み出せると信じているからである。特に、19世紀の多くの主な画家たちは、有名な様式をいくつも生み出した。今名前が残っているのは、トマス・ローレンスやD.G.ロセッティ、
G.F.ワッツ、ジェームス・ホイッスラーらであろう。



No.6へ続く







# by johanesvermeer02 | 2018-10-12 08:54 | 額縁

ヨーロッパの額縁 No. 6

註釈

※1 モールディング(molding)刳形くりがた
    繰形とも書く。蛇腹、エンタブラチュア、柱頭、柱礎、(礎盤)、開口部など建築の部分や部材或いは建具・家具の輪郭を強調するために用いられる。同一断面で細長く、軽微に起伏する装飾。起伏の方向により突出するものと彎入するものとに分けられるが、突出も彎入もせず、2つの刳形を分離する為用いられる厚さがないものもある。刳形の表面にはしばしば、その断面形を尊重しながら卵簇文、数珠繋、山形飾りなど各種の文様を彫刻したり塗装をしてその効果を強調する。


2 タベルナクル額(Tabernacle Frame)
     タベルナクルとはユダヤ教において、イスラエルの民と神の間に交わされた契約の板を収めた櫃( ひつ)を祀った移動可能な聖所のこと。聖体にパンを納める聖櫃を祀る 。「幕屋」をも意味する語でもある。中世の建築用語としては聖人像を置くための壁龕(へきがん)を指す。この様式では屋根部分が絵画を入れるどう部分よりも張り出している特徴がある。建築物をミニチュア化したもので、当時裕福な家庭の小礼拝所において、祈祷用に描かれた聖画を、雑多な周囲から聖別する重要な役割を担っていた。



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※3 エンタブラチュア(entablature)
    ギリシャの神殿建築などにみられる柱頭の上部 へ水平に構築される部分で、モールディングや帯状装飾で飾られる。 エンタブラ   チュアは古代建築の重要な要素であり、一般的には アーキトレーブ、フリーズ、コーニスの部分に分かれる。        


※4 カセッタ(Cassetta)小箱型額
    イタリアではカセッタは小箱を意味する。この額縁様式はタベルナクル額を発展させたもので1 6世紀から17世紀までイタリアで
   最も人気のあるものの1つであった。その様式は16世紀の初めにヴェニスにおいて当初見られた。カセッタはタベルナクル額のエ
   ンタブラチュアによって霊感を与えられた。それぞれの側の下方に伸びて底を超えて内側の端と外側の端とが盛り上がった単純な箱
   である。この様式は額縁の宗教色が薄れ。個人の邸宅に飾ることの出来た肖像画のような世俗の絵画が必要とされることで人気を得
   た。この最も単純な形はウォルナットや他の木材のモールディングが平らに構成された様式が適用される。より手の込んだ例は、彫
   刻やグラッフィートやパンチングやパスティーリァのような金箔の装飾技法である。その装飾は材料の価格やどこでその額が使われ   たかカセッタが構成された地域によって決まり、変化する。ボックス額とも呼ばれる。



※5 マニエリスム (mannerism)
    時期は盛期ルネサンスとバロックの合間にあたる。その表現は、極度に洗練された技巧、曲線を多用した複雑な構成、歪んだ遠近
   法を用いた構図、明暗のコントラストや入り組んだ奥行表現による効果、異常なプロポーションや色づかいなどを特色としている。   イタリア語の「マニエラ(maniera:手法・様式)」に由来する言葉である。ヴァザーリはこれに「自然を凌駕する行動の芸術的手
   法」という意味を与えた。

※6 サンソヴィーノ額 (Sansovino Frame)
    特にヴェニスやヴェネツィアの主な島において16世紀後半から17世紀前半にかけて最も成功し、広く使われたうちの1つのイタ   リアの額縁様式。その特徴的なデザイン要素は豊富な重ね合わせと渦巻き装飾と螺旋状のものを 絡み合わせたものである。その額   は果物の花綱飾りや多くの天使やキューピットやケルビムが彫られているのを見ることが出来る。その表面は1部分が金箔である。   サンソヴィーノ額はヴェニスの居住者であり彫刻家で建築家のヤコポ・サンソヴィーノの名に因んでいる。この額縁様式はローマ盛   期ルネッサンスから学んだ。古代的荘厳さにヴ ェネツィア風の華やかで豊かな彫塑的・絵画的表現が巧みに融合された、彼の建築   的法則に少なからずのっている。

※7グラッフィート (sgraffit0)(掻き模様)
    金箔で覆った表面の上から絵具を塗ってから模様の形に削ることによって絵具の下の金の模様を表す。この華麗な装飾の型は全て   のルネッサンス額の前面にある連続模様やバロック額の中央や角の巻軸装飾に見ることが出来る。

※8 カルトゥーシュ(Cartouche仏)
    バロックやロココ期の間の広範囲に使われ後期新古典主義を通した額に見ることが出来る。武器を身につけて覆われた絵画のモデ   ルと類似点があり、盾、紋章か渦巻き模 様を額縁の上部中央に配したもの。それらは通常C-スクロールかフォリアージュ渦巻き模   様の境界にある。

※9 ボレクション様式(Bolection Frame)
    作品や壁から遠いところから凸面と区別した形の浮き出し繰り型=板の表面に盛り上がっている繰り型)で葱花線型繰り型(=S
   字型のように反転曲線を持つ繰り型)を反対にした断面で彫り上げた17世紀後半に紹介された額縁。

※10  グランド・ツアー (grand tour)
     17、18世紀のヨーロッパで行われていた伝統的な旅行の習慣を指しています。主な目的は、
   教養を磨くために古典古代とルネッサンスの文化的遺産を身に付けるために、特に若い男性が行っていた旅行である。

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※11 スコティア部(Scotia)
     広い半円の形をした凹面のmolding(刳型)cove(凹んだ刳型)とも呼ばれる。


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※12 オジー・モールディング(ogee molding)
      (葱花線繰形)(S字型のように反転曲線をもつ繰形) S字型のように反転曲線をもつ繰形で上方に凸面、下方に凹面の2つ      のカーブの連続した線によって形づくられた形状のmolding、又はS字カーブ、 または反転したS字カーブ、Cymaとも呼ばれ      る。 Cymaは波という意味のギリシャ語の  Kymaに由来する。

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※13 トルス(torus)
       断面が半円の形をした装飾に使われる凸面のmolding


※14 フランボワイヤン様式(framboyant style)
      ゴシック様式の最後に位置するのがこのフランボワイアン・ゴシックと呼ばれる様式。フランボワイアンとはフランス語で「    (炎が)燃えさかる」という意味で、「火炎様式」と呼ばれています。聖堂などの窓やトレーサリー(狭間模様)が、それ迄円形     等の幾何学模様の単純・簡素であったものが、まさしく炎が波打ち燃えさかるような複雑な形の曲線で描かれてゆくようになり     装飾の技巧性が際立つようになる。この様式は、フランス北部の大規模な大聖堂ではなく、むしろ中小規模の聖堂で多く見られ     、その意匠はフランスで生まれたものではなく、イングランドのトレーサリーや、神聖ローマ帝国のネット・ヴォールトを取り     入れたもの。数々の聖堂やモン・サン・ミシェル  大修道院聖堂の内陣などが、このようなフランボワイアンのすばらしい作     例として今も残っている  。

※15 アーキトレーヴ(architrave)
      額縁の起源となる古典建築で、列柱に支えられその上にフリーズ及びコーニスを載せる水平の梁 の部分を指す。或いは窓の     周囲を取り囲む刳形付き縁どり。

※16 アンテミヨン(Anthemion)忍冬模様
      =忍冬(スイカズラ)やパルメット椰子を形どったギリシャでは一般的な装飾。ギリシャ時代の(食用果樹) の花で、そ       れはスイカズラに起源があると思われ葉と花の形を簡単に構成された装飾要素の帯の特徴があるものとして使われている。


参考文献
額縁と名画 ニコラス・ペニー 古賀敦子訳
Looking at picture frame
Wikipedia
新潮 世界美術辞典    新潮社版



【謝辞】
この度、ヨーロッパ額縁の歴史を記述するにあたり、イギリスの”Academy fine paintings”のGavin Claxton氏に多大なご協力を頂き、深く感謝いたします。
Academy fine paintingsは、18~19世紀の素晴らしいイギリス絵画を販売するディーラーであり、絵画のみならず、当時の貴重な額縁のコレクションも有しています。
こちらから、サイトをご覧いただけます。
http://academyfinepaintings.com

ヨーロッパにおいて、額縁は、絵画と密接な関わりを持って発展してきました。
額縁は、それぞれの国や地域の特性を備え、また、それぞれの時代によっても形を変えてきました。そこには、専門の職人による熟練した技があり、大量生産とは違う手仕事の美しさもありました。
時代と共に失われていく額縁の価値を、Claxton氏によるヨーロッパ額縁の歴史の解説によって、当作品展にお越し頂いた皆様に、少しでもお伝えできましたら、幸甚に存じます。
当作品展にいらっしゃった皆様が、今後、美術展で絵を観る際、作品を取り囲む額縁にも目を向け、年代による様式の違いや、国によるデザインの違いなどを楽しみながら鑑賞していただけましたら、この上ない喜びです。

最後になりましたが、この冊子を制作するにあたり、監修ならびに装丁をして下さったAtelier LAPISの筒井祥之先生に心より感謝申し上げます。
これを機に、自分でも額縁を作ってみたいと興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非、Atelier LAPISへお越しください。
先達に学びながら、自分の手でものを作り出す喜びは、人生の大きな宝となることでしょう。

Atelier LAPIS
〒225-0024
横浜市青葉区市ヶ尾町1153-2 ライオンズプラザ市ヶ尾303
お問い合わせ・見学はこちらへ atelierlapis47@gmail.com

                        訳者・今村 さくら
                        2018年8月




このBLOGをお読みいただきありがとうございます。
今回の「ヨーロッパの額縁」は今村さんが額縁を知ることに少しでもお役にたちたいということで
LAPISの展覧会に合わせてギャビン氏のサイトを翻訳したものを冊子にして配布したものです。
様々な展覧会でも多くの絵画作品とともに日本でも素晴らしい額縁作品が展示される機会はあるのですが、残念なことに額縁の研究者は皆無なため、カタログにも残らず、私たちに紹介される機会も失われています。この機会に皆様にも是非関心を持っていただければ幸いです。
 次に今回のLAPISの展覧会において、この「ヨーロッパの額縁の歴史」と共に冊子として「ヨーロッパの絵画の歴史」も配布いたしました。既にご存知の方もおられるかとは思いますが、引き続き、アップいたしますので、合わせてお読み頂ければ幸甚です。

                   監修者  Atelier LAPIS 筒井 祥之
                        2018年 11月23日

# by johanesvermeer02 | 2018-10-10 09:04